激変する世界に向けて1200年生き延びてきたKYOTOから生き延びる智慧とヒントを発信

キンキのパスタ

 日本食には、「出会いもの」という言葉がある。鰤(ぶり)と大根、鱧(はも)と松茸(まつたけ)、筍(たけのこ)と若布(わかめ)などはまさに出会いものの逸品で、鰊(にしん)ソバやいもぼうなど京都の名物料理もまた出会いものである。

 さて、和食と言えばいいのだが、敢えて日本食と言い、また日本の食材は出来る限り漢字で書く。その理由は、ある出会いによる。

 その出会いは後に置いておくとして、日本料理の特色は、京料理に典型のように、季節の旬のものを、その素材を生かして食べることにもある。多くのものが油料理になる中華料理、ソースが味の決め手になってしまいがちなフランス料理と比べても、日本料理は明らかに素材の味を生かす。

  この出会いものと素材の、特に旬の味を生かすという二つを、日本料理の大きな特色とするならば、その日本料理の幹に別の方法を接ぎ木して、見事に花を咲かせているところがある。いや逆か。接ぎ木の方が日本食か。いや、二度目のいやだが、そういった別の種類を単にくっつけるのではなくて、二つの融合、いわばフード・フュージョンと言ったほうがいいのだろう。食材の出会いを遥かに超えて、方法の出会いだからである。和食でなく日本食と言ってきた理由がこれで、明らかにフランス料理と日本料理の出会いがある。しかも京都の出会いものがそうであるように、まるで違和感はなく、むしろ出会いの方法での味創りが見事で、もうひとつの料理法を生みだしているとも言える。

 一乗寺の住宅街に立つ「おくむら」は、そのたたずまいからしてフランス料理のレストランであり、室内も明らかにフレンチのお店である。もっとはっきりしているのがお店の名前である。「西洋膳所(せいようぜんところ)おくむら」とある。明治時代に日本食とは違いますよ、と西洋料理を提供するお店がそう言っているようにも思うが、オーナーシェフの思いは違うところにあるのかもしれない、そんなことをいろいろ思いながらお店に入る。

 出迎えてくれたフロアーマネージャーは、葡萄のバッチを付けたソムリエである。テーブルに案内され、テーブルの上にすでに用意されているテーブルセットも日本食ではない。そしてお箸が添えてあるところに気付く。そこで初めて、フランス料理の既成概念が少し揺れる。ナイフとフォークが苦手な日本人向きの心遣いだと思ったが、前菜からその単純な発想が裏切られる。嬉しく、ワクワクと裏切られる。前菜を見て、お箸はフード・フュージョンの宣言に読めた。

 冷えたシャンパンで、舌をフランス料理モードにしたつもりだが、目の前に紅葉と柿の葉が飛び込んできて、柚の器も見える。「おおっ」と声が出てしまう。

前菜

前菜

前菜2

紅葉の下には

 先に断っておこう。あまりの繊細さに食材の記録が完全でないかもしれない。例えば、前菜は、柚の器に車海老、柿なます、カマスの塩焼き、ヨコワのミゾレガケ、ブロッコリーのスプラウトのサーモン巻き、菊菜胡麻あえ、あげ銀杏だと思う。隣のテーブルでの紹介されているのを聞いてもそうだと思うが、改めて聞きたくはない。それぞれは確かに素材だが、そこに展開しているのは、組み合わせの妙であり、色彩であり、当たり前ながら、最もいい意味での出会いの味のである。素材を確かめるのは、完成した油絵の作品を見て、使われた絵の具の色を尋ねるような愚かしさに思えたからだ。

 前菜で確かに宣言されていた、フランス料理が京都で展開されるとこうなりますよ、と。京都近辺で採れた旬のものを、可能な限りその素材の味を生かして、フランス料理風に提供しますとこうなります、と。

 料理が進めば進むほどその宣言は、高らかに、そして見事に実践されていく。

椀

前菜その2

前菜その2

 次に運ばれたオマール海老のサラダ、洋梨のムース、コンソメのゼリーでフランス料理を楽しむと、すぐさま、直球の日本料理法ですぞ、と器が言っている。御椀であり、河豚(ふぐ)しんじょう、オクラ、菊花、蕪(かぶ)、人参が、見事に日本料理の冬を味わわせてくれた。

 次は柘榴(ざくろ)と柚のドレッシングで鯛のサラダ、オクラ、いろいろ旬の野菜が短冊で味わえた。
 そして寒鱸(すずき)のポワレ、サフランソースと来る。

サラダ

サラダ

寒鱸のポワレ

寒鱸のポワレ

 このように書くと日本とフランスをジグザグで味わうように思える。しかし、技は時に日本風であり、時にフランス料理風であるが、いや、二つが統一されて「おくむら」の技になっていて、まさに見事。ソースで誤魔化す悪しきフランス料理の逃げもなければ、味の奥行きのないものを薄ければ京風だと思わせる押しつけもない。

 近江蕪(かぶ)のスープ、キンキのパスタ、水菜他野菜のいろいろと続いたが、文字は当たり前ながら先入観を持たしてしまうから、味にとっては、文字での紹介はマイナスかもしれない。なぁんだ、とか、奇をてらっているようにしか思えないのは、文字のせいで、味わわないとわからないぞ、と書き手の責任を放棄する。そうそう、写真もそうだ。今回はその繊細さを写そうとして、素人の焦りで、ピントが甘い。しかし、写真のプロでもなく、写真を撮りに行くのでもなく、お料理を楽しみに行っているので、ついつい食べる方に気が向いてしまう。

スープ

スープ

キンキのパスタ

キンキのパスタ

 文章とてそうで、素材をきちんと聞いて、シェフにインタビューして、と言う気持ちはまるでない。moonなるスタッフは、食の評論家でももちろん料理人でもなく、カメラもプロではない。今後もこのスタンスは変えるつもりはない。思うままに書かせていただいて、ピントが悪くてもシャッターを押させていただく。それは対象が食だからで、食を鑑賞すると言えば、何よりも舌であり、鼻であり、時に噛む音を聞く耳である。目も確かに使うが、あくまで導入である。この取材に誘われて出かけてくれた全ての人が「その通りだ」と思ってくださるはずもない。テーマが味と言う実に個人的な好みが大きく左右されるものだからだ。だから、自分達が「美味しくない」と思えば、取材しても書かないつもりだし、お邪魔したお店の味が良くて、他に欠点があったとしても、致命傷でない限りその欠点には触れない。その理由は、料理人や店の経営者はプロであり、食べさせていただく我々はアマチュアであり、プロになにこれと言うのはおこがましいからである。評論する権利のある人は、野球や相撲などの解説者のように実際に自分がやってきた人の引退後の評論だけで、そのジャンルのプロの評論は、そのジャンルの人しかできない、という偏見があるからだ。

一口カレー

一口カレー

 そう断っておくと気が楽になるが、舌は、「おくむら」のパラダイスに遊びながら感動。選択とは言え、なんと最後は一口カレーライス。日本風だと言え、インドが出自であり、そう言えば、途中にイタリア出自のパスタもあった。

 そうなるとデザートが気になったが、フランス料理風に沢山提供されたが、素材は日本風。ちなみに柿のシャーベット、金柑(きんかん)、メロン。

 そしてチーズのムース、栗のミルフィーユ、紅葉の形にココアパウダー、柘榴、栗のロールケーキ、蜂蜜。

デザートその1

デザートその1

デザートその2

デザートその2

ハーブティー

ハーブティー

 西洋膳所おくむら、そこが住宅街でもあっても、間違いなく京都であり、激しい雨があがった空を見上げて、気持ちにも体にも美味しい味をどう表現するか、そう思っていると、「それが京都なんだ」と言うおかしな感想になってしまった。それはフランスと日本の出会いの妙であり、京都だからできたのかもしれない。

[文・写真:moon]

西洋膳所おくむら一乗寺本店

京都市左京区一乗寺谷田町3

075-781-0001

平日12時から14時、17時から21時休日7時から19時

定休日 月曜日

このBlogは『moon』いう集合名詞のスタッフが、勝手に食事にお邪魔し、写真の許可だけを貰ってご馳走を頂戴し、これは掲載すべき美味であると感じたものだけ、食後に料理人などに少々のインタビューを試みて構成しています。各食品の感想を語ることを極力控えるのは、味は舌を媒体として個人個人が感じる以上、言葉では「美味しい」という表現が最高と思われますし、それ以上の表現はなかなか難しく、また自分自身で感じてもらいたいし、また個人個人の趣味もあります。ですから、なるべく写真で紹介して、全体としてのイメージを伝えることを主とします。但し、一切の責任は当ホームページの主催者にあり、賛同、苦情などはコメント又はメールにてお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>