激変する世界に向けて1200年生き延びてきたKYOTOから生き延びる智慧とヒントを発信

 ●魔王尊の降臨
 市中から洛北の野を走る叡山電車に乗るとわずか30分で鞍馬の地。今なお山気と呼ぶべきものが漂っていて、650万年も昔に「転迷開悟 破邪顕正」の魔王尊(サナト・クマラ)が地球を救うべく、金星から鞍馬山に依(よ)り降ったという言い伝えも信ずべきことと思えてきます。

 そんな鞍馬の特産品は山椒(さんしょう)を生かした木の芽煮です。かつては雍(よう)州路と呼ばれ『海のない港』としてにぎわった鞍馬街道には山椒を煮るにおいが流れています。

 山椒は筍(たけのこ)をはじめ稲畑汀子の「何にでも添ふる山椒の芽を摘んで」の句のように香辛料として古くからの名脇役でした。

 その辛みの主成分はサンショオール、香りの成分はジペンテンなどの油性成分です。

 ●皮・花・実
 江戸初期の京の見聞記である『雍州府志』に「木の芽漬」として「春末・夏初、通草(あけび)の葉を採り、忍冬(すいかずら)の葉、木天蓼(またたび)の葉と合し、細かにこれを刻み、塩水をもつてこれを漬け、しかして後、陰乾してこれを用ゆ」とあります。

 また山椒の皮を剥(は)ぎ、煮て市中に売ったとも記しています。「味は辛辣(しんらつ)で、椒の味に劣らない」(『本朝食鑑』)というものでした。

 山椒の花は花というほどの色も持たず、咲くというほどの華やかさもない、淡い黄色味を帯びてはかなげです(写真上)。

 人はそんな花を摘み取って佃煮(つくだに)としたり、山椒鍋につかみ入れます。口中に春の香りが満ち溢(あふ)れる贅沢(ぜいたく)な味わいです。「山椒をつかみ込んだる小鍋かな」は一茶の吟。

 嵯峨野の直指庵に入った高岡智照尼の「朝粥(あさがゆ)の膳(ぜん)に一ト箸(ひとはし)花山椒」の吟。

 山頭火の「ふつとふるさとのことが山椒の芽」の吟のように、においは時間と空間を超えて瞬間的に記憶を遡行(そこう)させます。

 実は塩蔵して日常的に用いられます。鞍馬では昆布や蕗(ふき)、椎茸(しいたけ)、筍、葉唐辛子、ちりめんじゃこなどと組み合わせて、大鍋で山椒の持ち味を生かした佃煮に仕上げています(写真下)。

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[文・写真:菊池昌治]

【菊池昌治の著作】

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